オーガニック・プロのなぜなにコラム あんしん、おいしい、タメになる とくっちオーガニック
- オーガニックマーケティング協議会って何?
- [オーガニック]の実践・普及・促進を目的とした非営利の協議会。 らでぃっしゅぼーや、オーガニックスーパー、有機JAS認証機関などを設立してきた徳江倫明が推進役となって、全国の有機農家、各界の専門家が連携し、分析・調査・提言を行う、[オーガニック総合シンクタンク]です。
今回のコラム
短角牛の春
5月になれば北の国も春です。今年は、有名な弘前城の桜(青森県)も4月28日には満開、北海道の道東や宗谷地方も咲き頃を迎えています。こうなると、広い山の牧野も雪が溶け、青々とした牧草が伸び出し、待ちに待った、短角牛の放牧もはじまります。
短角牛とは、日本短角種という和牛の品種のこと。和牛といえば日本全国、とりどりの地域ブランドで育てられる黒毛和種がポピュラーですが、短角牛は、東北と北海道で、放牧を取り入れた、昔ながらの飼い方の和牛です。「夏山冬里方式」といって、その名の通り、短角牛は、夏の間は山に放たれ、雪に埋もれる冬になると里に下りて、小屋で育てられます。
夏山冬里は、とても自然で合理的な飼い方です。牛を放牧している間は草がどんどん伸びるので餌がいりません。春に生まれた子牛も母牛といっしょに放牧されるので、子牛は人工乳ではなく母乳で育ちます。「まき牛」といって、雄牛も同じ区画にいて、自然交配も成り立ちます。
こうすることで牛の世話をすべて山に任せることができ、人は田畑やほかの仕事に精を出すことができるのです。そして農閑期の冬は、夏の間に刈り取っておいた干し草を与えながら過ごし、3月頃に出産シーズンを迎えて、また来る春に、子牛と一緒に野に出る時を心待ちに。短角牛の夏山冬里には、そんな、季節とともにある暮らしが、今も息づいているのです。
こうした短角牛の育て方は競争に不向きで、これに輸入の自由化も追い打ちをかけて、生産農家が激減しました。より脂肪交雑が多い霜降り肉をつくって、より高い値段で、競争して売り買いするという牛肉生産の考え方では、自然交配よりも、計画的な人工交配が有利です。また、品種改良が進んだ牛は、肉質が大切にされるあまり、たとえばお乳の量が子育てするには少なすぎるなど、生き物としての牛がほんらい備えているはずの機能も弱らせていきました。
このため、一般の肉用の牛では、まき牛や、放牧による子育てはされていないので、有機に認定されることは困難です。世界的なオーガニックの基準では、生命への尊厳が失われることのないよう、豚も鶏も含めて、放牧や、清潔でストレスのない環境での飼育を定めているからです。短角牛では、青森県七戸、北海道八雲の2農場が数少ない有機認証を取得しています。北国の牛たちは今年も、待ちに待った春を喜んでいるのではないでしょうか?
あいうえオーガニック
- 国産パイナップル
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ゴールデンウイークも終わり、季節は初夏。南の島から今年の“旬”のパイナップルがやってきました。
パイナップルに旬があるの?と驚かれる方も多いと思います。パイナップルは通年安定して輸入されているので、バナナ同様、あまり旬を感じさせない南国のフルーツ。その約9割がフィリピンから入ってきます。これに対して国産のパイナップルの生産量はとても少なく、これから夏にかけて、主に沖縄県から、南の島の“旬の味覚”としてやってくるのです。
そのはしりとして食卓に上り始めるのがピーチパインは、桃のような甘い香りと白い果肉の小ぶりな「ソフトタッチ」という品種のパイナップルです。うろこ状の果皮を手でちぎって食べられるボゴール種は、スナックパインとも呼ばれる最近人気の品種です。そしてずっしり果汁たっぷり、大ぶりのハワイ種などが8月ごろまで続き、国産パイナップルのシーズンが終わります。
もともと南米が原産のパイナップルは、15世紀の大航海時代、新大陸の発見で世界に知られるようになり、その後18世紀には世界各地の熱帯・亜熱帯地域で栽培されるようになりました。ただし、パイナップルは輸送や貯蔵に弱い作物で、とても生の状態で長い距離、長い時間を運ぶことはできませんでした。バナナのように青いまま収穫して追熟することもなく、甘くならないので、パイナップルは、生食ではなく、主に缶詰用に生産されました。畑でできるだけ甘く熟させて、畑の近くの缶詰工場から、缶詰食品として世界各地に広まっていきました。
この方式が沖縄に伝わったのは20世紀の初期で、缶詰工場で製造される「パイナップル缶詰」は戦争の打撃も乗り越えて生産が拡大し、1960年代にはサトウキビと並ぶ2大基幹作物にまで成長したそうです。
ところが、1970年代に入って、オイルショックや冷凍パインの輸入自由化などの影響を受けたり、安い輸入のパイナップル缶詰の輸入自由化で打撃を受け、最盛期には5千ヘクタールも栽培されていたものが、約10分の1にまで減っていってしまうのです。
強い酸性の島の土でもしっかりと生長し、台風や干ばつにも強いパイナップルは、沖縄の農業にとって貴重な作物。その後苦しい時代を経て、空輸して保存の技術も高めることで、輸入のものでは不可能だった高い品質のパイナップルをお届けできるようになりました。
未熟な果実には、針状の結晶が口の中をヒリヒリと荒らす「シュウ酸カルシウム」が多く含まれていますが、国産のものはまず大丈夫。食べられる季節は限られますが、しっかり熟してから収穫した、甘くてポストハーベスト農薬の心配もないパイナップルなのです。